IPSGセミナー『総義歯ライブ実習コース』の歯科技工士の観点からのレポート

Weber dental labor 石川太一です。

2016/16,17,18(土、日、月)に行われました、「総義歯ライブ実習コース」について、レポートいたします。


毎年夏の三連休に行われる本セミナーは、三日間で患者様の問診から義歯装着までを行うという、斬新かつ挑戦的なものです。

加えて例年と最も異なる点は、新しく設立いたしました歯科技工所、Weber dentl laborにおいて、義歯の咬合調整、重合、研磨、完成までを見ることができるという新しい試みを実践するということでした。

この試みにより、普段はあまり表に出ることの少ないラボサイドの仕事を、先生方により深く理解していただけたかと思います。

まずは三日間の実習の流れをご紹介いたします。

■一日目
・問診
・口腔内 顎関節 唾液 診査
・スタディーモデル印象
・咬合器付着
・個人トレー用意
 
■二日目
・個人トレーの試適、調整
・上下顎同時印象
・作業模型製作
・人工歯排列
・ロウ義歯試適

■三日目
・ラボにて咬合調整
・埋没、重合、完成
・装着前の確認、調整
・新義歯装着

以上のような流れです。

初日は、稲葉繁先生による講義の後、患者様が来院され問診、各種診断を行われました。

その後アキューデントトレーを用い、アルギン酸を二重印象し印象採得します。

アルギン酸は自動練和機を用い、一回目の印象時は堅練りで、二回目の印象時はクリーム状にします。

この時、トレーの柄をカンペル平面に合わせることが重要です。

次に、SIバイトトレーにて咬合採得します。

でき上がった模型をトリミングし、SIバイトトレーを用いて咬合器に付着後、個人トレー制作に移ります。

個人トレー制作時には、アンダーカット部や、歯槽頂、皺のある所や印象がガタガタしている所などをパラフィンワックスにてリリーフ後、分離剤を塗り、オストロンⅡにて外形を形成します。

個人トレーの外形は、最終的な義歯をイメージした形にします。

特徴的なものとして、上顎咬合平面に前歯部の形状を形どった透明なブーメラン状のプラスチック板を張り付けます。

これを用いることにより、ゴシックアーチ印記時に描記しやすくなります。

二日目は、初日にでき上がっている個人トレーの下顎に、パラフィンワックスを二枚分張り付けるところから始まりました。

これにより、描記針を植立した後にこのパラフィンを取り除くと、印象材が舌側と頬側を行き来し、かかる圧力を均等にすることができます。

次に、上顎の個人トレーの正中よりわずかに右寄りに、フェイスボウの六角棒を入れるためのネジを埋め込み、個人トレーを完成させます。

その後、あらかじめ下顎のトレーの三か所のワックスを除去し、描記針を植立しておきます。

そして患者様が来院され、まず、個人トレーを試適、調整します。

その後上顎個人トレーの描記針が当たるところに少量のパラフィンワックスを流し、その上にクレヨンをぬった後、ゴシックアーチを印記します。

その後いよいよ上下同時印象します。

印象材については、エグザミックスの少し硬さのあるレギュラータイプを使います。あまりフローの良すぎるものは使いません。

印象材を注入後、フェイスボウ採得のためのネジを出し、六角棒をはめ込み、回転止めをします。

次にフェイスボウを装着し、ジョイントピースで固定したあと、外します。

印象採得後、人口歯の選択をした後、作業用模型製作に移ります。

この後の技工操作はIPSG技工インストラクター小平雅彦先生に行っていただきます。

熟練した技術と、幅広い知識には目を見張るものがありました。

上下同時印象の模型は、咬合器装着が終わるまで、印象から模型を抜くことがないので、できるだけきれいに石膏をつぐ必要があります。

まずは上顎からマルチパッドを用いてボクシングし、石膏を流します。

その後同様に下顎にも石膏をついで、咬合器にマウントします。

その後、石膏コア制作の後、人口歯排列、歯肉形成を行っていただきました。

人工歯排列においては、上顎前歯部では、左側中切歯から始め切歯乳頭から7ミリ前方に切縁がくる位置に排列すると同時に、石膏コアを用いて患者さんに審美的によい位置に排列します。

その後CPCライン等考慮しながら6前歯を並べ、テンプレートを用いてパウンドラインに沿った臼歯部排列に進んでいきます。

歯肉形成終了後、ロウ義歯試適を行います。

義歯床縁を削合する場合に、稲葉繁先生考案のコルベンバーが重宝します。

バーの形状が局面になっており、削ると同時に曲線を描いた切削面を実現できるという優れものです。

この時点では、審美的な見え方、正中の位置、咬合高径、発音などを精査します。

そしていよいよ最終日です。

最終日は、初の試みで、Weber dental laborにて技工作業を見学いただく先生方と、IPSG研修会場で稲葉繁先生と、岩田光司先生の講義を受けていただく先生方とに分かれて、二か所で同時進行していくという形になりました。

これより後のレポートは、Weber dental laborでの技工作業の模様をお伝えします。

最初はみなさん初めてのことばかりでしたので、緊張の面持ちでしたが、時間が経つにつれ場の雰囲気も和らぎ、緊張感がありつつもリラックスした空気感がありました。

ご質問も多くいただき、非常に有意義な時間を過ごしていただけたかと思います。

前日にポストダムは稲葉繁先生により付与されておりましたので、ロウ義歯を焼き付けた後、咬合調整を行いました。

その後、イボカップシステムによる埋没、重合へと進んでいきます。

細心の注意を払って一次埋没~三次埋没終了後、流ロウします。

WASSERMANNの脱ロウ槽を使用します。

分離剤を塗布した後、カップバイブレーターによってできたレジンを填入します。

今回は重合時間を1時間半程とりました。
放冷後、割り出し、研磨を行います。

義歯の最終研磨はIPSG認定技工士 中沢勇太先生に行っていただきました。

最終研磨を終えた完成義歯です。
サブリンガルルームをはじめ、典型的なシュトラックデンチャーです。

急いで、IPSG研修会場へお届けしました。

稲葉繁先生による装着前のチェックの後、新義歯を装着していただきました。

患者様の笑顔が物語るように、審美性、機能性、どれをとっても申し分ない義歯ができ上がっていました。

今回おもしろいアクシデントがありました。

患者様が今まで使用していた義歯が、実は故 岡部宏昭先生が作られた義歯だったのですが、その上下義歯と今回小平雅彦先生が新しく制作した上下義歯を一緒にして、稲葉繁先生がシャッフルしたのです。

すると、ほとんど同じ形の義歯だったため、どれが新義歯か旧義歯かが判別できなくなったのです。

もちろんよく見れば判別できるのですが、それぐらい二つの義歯は酷似していました。

これはひとえに、稲葉繁先生が考案されたこの上下同時印象における総義歯製作法が、いかにシステマティックに構築されたすばらしい技術であるかを証明しているものだと思いました。

最後になりますが、今回新たな試みの中、暖かい目で見守ってくださった先生方に、心より感謝申し上げます。

また次回、よりよい内容の講義、実習を目指していきますので、よろしくお願いいたします。

Weber dental labor 歯科技工士 石川太一

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