超高齢に対する可撤式インプラント上部構造〜林昌二先生ご講演レポート〜
こんにちは。
Weber dental labor 稲葉由里子です。
先日開催されました、「パーシャルデンチャー・テレスコープシステム実習コース」にて特別講演をお願いした神奈川歯科大学付属横浜クリニックインプラント科の林昌二先生のレポートをお届けしたいと思います。
林先生とは、ISOI国際インプラント学会へ出席させていただいたときに、ドイツ、チュービンゲン大学Weber教授よりご紹介いただいたことがご縁で、IPSGでは3回目のご講演となります。
Weber 教授からは、絶大な信頼感を得ている素晴らしいドクターであり、私も尊敬する林先生にいらしていただき、大変光栄に思います。
林先生はチュービンゲン大学にインプラントを勉強しに行かれましたが、Weber教授をはじめとする、先生方は、日本に戻ってからもできる研究の方がいいのではないかということで、『電鋳加工』『放電加工術』について研究課題とされていらっしゃいました。
Weber教授はインプラントの上部構造にはテレスコープシステムを用いることが多かったので、テレスコープについても大変詳しくいらっしゃいます。
今回、IPSGでお話しいただいた内容は、
「超高齢に対する可撤式インプラント上部構造」についてです。
最近どこの学会でも話題となるのが、高齢者に対するインプラント治療についてです。
超高齢社会に突入した日本において、大変重要な話題であり、今後は介護を見据えてインプラントや歯科治療をする必要があります。
既往歴をしっかりと見ることが大切であり、投薬や入院歴を聞き、インプラント治療を行うことが大切です。
インプラントを行なったけれど、ケアができず、結果インプラントも残っていた天然歯を失ってしまうのは残念な事です。
患者様の人生は、口腔機能の低下により著しく制限されます。
高齢者の患者様で、歯の欠損が多い場合どうしたら生活の質を向上させることができるのでしょうか?
そのような患者様に、インプラント治療は貢献できるのでしょうか?
ということで、インプラント補綴学についてお話しいただきました。
インプラント治療、すべての補綴物に言えることだと思いますが、100%はありません。
インプラント治療には将来、インプラント体の脱落、アバットメントスクリュウの破折の危険性が必ず内在します。
特に一生涯にわたる機能を確保したい患者様の希望に対しては、成功と失敗があることを知っていただくことが重要です。
そして、特に高齢者の方には、メンテナンスと修理が容易な上部構造を取り外しできるような方法にした方が良いというお話をいただきました。
Dental supark erosion technique 歯科放電加工
昨今、ドイツでは放電加工によるコバルトクロムの加工が、インプラントやテレスコープの上部構造に盛んに用いられています。
Passive Fit 鋳造の限界を表す用語ですが、放電加工術によって素晴らしい適合を得ることができます。
林先生は、2001年に放電加工術を導入。
第一号のケースも見せていただきました。
スクリュー固定から患者様可撤式へ。
家族も知らない場合もあり、どの種類のインプラントなのかわからない場合もあります。
患者様もしくは介護者が取り外しと清掃ができることが望ましいということです。
現在は、「高齢の患者様への終末期までの予後を想定した治療」をチェアサイドとラボサイドで治療計画立案から上部構造決定、メンテナンスまで連携することが重要となります。
技工士との連携は不可欠であり、ドイツでは技工士の仕事が確立されています。
昨今の日本の技工士減少においても、懸念されていました。
テレスコープ治療においても支台歯の位置や設計は非常に重要ですが、パーシャルデンチャーの基本は、インプラントとも一致していると言えるでしょう。
歯がないからインプラントをするのではなく、将来患者様がどのような状態になるかを想像して、次の一手二手を打つ必要があります。
チュービンゲン大学で、林先生の研究テーマでもあった電鋳加工についても様々な症例を通じてお話をいただきました。
ドイツでは、術者可撤式は現在ほとんどなく、林先生の臨床においても患者様自身が取り外しができる方法を選択されているそうです。
写真は、AGCによるリーゲルテレスコープです。
また、日本で多く用いられているマグネットデンチャーに関しての見解をお聞きしたところ、ドイツではマグネット義歯を見ることはないそうです。
数社あったそうですが、今ではSTECO社の製品が顎顔面補綴に用いているのみのようです。
ストローマン社からも発売していたようですが、現在では流通していません。
マグネットは、歯ぎしりなど横の動きに弱く不確かなため行わないようです。
テレスコープシステムの歴史は、130年。
メリットとしては、インプラントの本数を少なくすることができ、修理が容易だということ。
Combined fixed removable prosthetic reconstruction
【長所】
1.内冠はアバットメントを使用でき、内外冠の高い適合性は高齢者に柔軟に適応する。
2.維持力の調整は容易でありアタッチメントがサポートする
【欠点】
1.コストがかかり、来院回数が必要
ということでした。
ドッペルクローネによる、インプラントと天然歯のコンビネーション症例など、他にも沢山の症例をみせていただきました。
電鋳ドッペルクローネは天然歯と連結することでインプラント本数をコントロールすることができます。
また、セルフケアが固定性に比較して容易でインプラント粘膜周囲炎を発見しやすいという利点もあります。
インプラントのみとインプラント、天然歯混合において16年間の統計処理では有意差がなかったことから、臨床において混合の可能性が認められました。
いままでは天然歯があると飛び飛びにインプラントを埋入しセメント固定でしたが、混合することでインプラントの本数削減と感覚受容器の利用などの利点が認められます。
アーヘン、キール、ハイデルベルク大学でも似た研究はありますが最長で8年ですから、林先生の臨床の方が信頼性が良いと思います。
材料も新しいものに飛びつかず、10年残っている歯科材料にこそ信頼を持って使う事ができる。とおっしゃっていました。
約2時間、貴重なドイツの最先端技術をご講演くださり、大変刺激的な内容でした。
医歯薬出版から林昌二先生の本が出版されました。
最小の労力で最大の効果を発揮する可撤性補綴装置について詳細に書かれている素晴らしい本です。
ぜひ、ご一読いただきたいと思います!
林先生、またご参加いただいた先生方、本当にありがとうございました☆彡
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